何年も弾いていないのに、
部屋の片隅にずーっと鎮座している黒いハードケース。
中に入っているのは、
30代のノリに乗っていた時期に
「よし、一生モノを買うぞ!」と
清水の舞台から飛び降りる覚悟で買った、
ちょっといい海外製のエレキギターだ。
捨てられない思い出と、妻からのプレッシャー
週末になるたびに、妻から
「これ、もう使わないなら処分したら?
部屋が狭くてしょうがないんだけど」と
チクチク言われる日々。
そのたびに、私は
「いやいや、これ高かったんだよ。
それに、いつかまた時間ができたら弾くさ」と、
お決まりの言い訳を返しては、
部屋にどんよりとした空気が流れるのが
我が家の定番だった。
正直、妻の言うことも分かるのだ。
アンプや昔の楽譜、エフェクター、
ついでに昔ハマっていた釣りの道具まで、
我が家の限られた収納を
じわじわと圧迫しているのは百も承知。
だけど、
どうしても手放せなかった。
それに何より、
あのギターを見るたびに、
平日の深夜までバンド仲間とスタジオに入って、
夢を語り合っていた熱い記憶がよみがえる。
それを手放すのは、
自分の輝いていた過去を完全に消し去るみたいで、
なんだかすごく寂しい。
転機となった「スペースの上限」を決めるルール
そんな時、
スマホでたまたま見かけた片付けコラムに
目が留まった。
そこに書かれていたのが、
「1イン・1アウト(1つ入れたら、1つ出す)」というルール。
最初は、「ミニマリストのストイックなやつでしょ」と
スルーしかけたけれど、
自分の趣味のスペース(聖域)を決め、
そこから溢れる分だけを自分の意思で選ぶという考え方に
ハッとさせられた。
無理に全部を捨てる必要はない。
ただ、「今の自分にとって本当に必要なもの」を
スペースの限界に合わせて選び直せばいいだけなんだ、と。
その夜、思い切って妻に相談してみた。
「クローゼットのこの棚と、部屋のこのコーナーだけは、
俺の趣味の『聖域』にさせてほしい。
ここに収まる分なら絶対に文句を言わないでくれ。
その代わり、はみ出るものはちゃんと整理するから!」
妻はちょっと驚いていたけれど、
「そこからはみ出さないなら、好きにしていいよ」と、
あっさりOKしてくれた。
面倒だった仕分けがサクサク進んだ理由
ルールが決れば、
不思議と重かった腰がスッと上がった。
まずは、「聖域」のキャパをチェック。
溢れかえっていた昔の道具や、
もう絶対に見ない古い楽譜、埃をかぶったアンプを手放す決意をした。
一度に全部売ろうとすると面倒で挫折するので、
スマホでパシャパシャ写真を撮って、
まとめて自宅まで引き取りに来てくれるサービスに
査定をお願するつもり。
邪魔な荷物から「お気に入りのインテリア」へ
そして、あの思い出のギター。
私は、一番思い入れのあるあのメインのギターだけを
ケースから出して部屋に飾ることにした。
部屋をいい感じに彩るインテリアとして、
毎日の生活になじんでいるのが想像できる。
仕事から帰ってきて、
お気に入りの椅子に座り、
コーヒーを飲みながらギターを眺める。
それだけで、
不思議と当時の情熱や音楽への愛着が
じんわりと満たされていく予感がするのだ。
スペースという上限を決めたことで、
私は過去の執着から解放され、
暮らしの心地よさを手に入れることだろう。
もし、昔の思い出の品が捨てられなくて
奥さんとギクシャクしている同世代の人がいたら、
ぜひ試してみてほしい。
スペースを守るための「1イン・1アウト」は、
自分の大切な過去を守りながら、
今を一番身軽に楽しむための、
最高の大人のルールだと思う。


